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(2)小型肝細胞
(2)-1 小型肝細胞の特異性

形態学的には類似しているが、小型肝細胞と成熟肝細胞の特性に大きな違いがある。小型肝細胞は、成熟肝細胞に比較し、肝細胞としての特徴は有しているが分化機能は明らかに低いが極めて高い増殖能を有している。そのため我々は小型肝細胞は肝細胞への分化が運命づけられた前駆細胞であると考えている。

小型肝細胞の肝前駆細胞としての特性を制御している機序を明らかにするためには、小型肝細胞を純粋に分離する必要がある。そこで小型肝細胞特異的な遺伝子を探索し、その中でも表面マーカータンパク質の遺伝子の同定を行った。

Agilent社のmiroarrayを用いて小型肝細胞特異的遺伝子の探索を行い、成熟肝細胞で発現が少なく小型肝細胞で高い発現をしている164遺伝子を抽出し、その中から膜タンパク質の遺伝子を同定した。その候補遺伝子16の発現をRT-PCR法にて確認した結果、CD44, RBI3, D6.1Aの3つの小型肝細胞特異的遺伝子を同定した。

その中でも良く知られているCD44にターゲットを絞って特異性を検討した。

CD44は、1回膜貫通型糖タンパク質でstandard formの他に10のvariant formsが知られている。細胞基質のレセプターとして働き、リガンドとしてヒアルロン酸、ファイブロネクチン、コラーゲンI, IV型が知られている(図1)。

小型肝細胞においては、standard formの他に、v6の発現も見られる。

図1

図1. CD44の特性

接着直後の細胞にCD44の発現は見られないが、コロニーを形成すると共に細胞膜に限局して発現してくる。成熟化し大型化するとその発現は消失する(図2)。

図2

図2. ラット小型肝細胞コロニーにおけるCD44発現。コロニーを形成する小型肝細胞は全てCD44を発現し、その発現は細胞膜に限局している。培養経過と共に見られる大型化した細胞(白矢印)や盛り上がった細胞においてはCD44の発現は消失する。成熟肝細胞や非実質細胞(赤★印)にCD44の発現は見られない
(Kon J et al, J Hepatology, 2006)

ラット小型肝細胞は、CD44分子種の内standard form及びvariant 6を特異的に発現する(図4)。

図3

図3. 小型肝細胞の増殖に伴うCD44分子種の発現。CD44sはコロニー形成を始める3日目に発現し、以後恒常的に発現するのに対して、v6は培養2週間後ぐらいの成熟化が始まる細胞が出現するころに発現するが組織化する小型肝細胞が多数を占めるようになると発現が消失する。
(Kon J et al, J Hepatology, 2006)

図4

図4. 大型化し組織化した小型肝細胞は、C/EBPaを発現し成熟化する。またMatrigelを投与することにより成熟化誘導も可能である。成熟化した小型肝細胞はCD44発現が消失する。CD44v6は大型化していない小型肝細胞に一過性に発現する。
(Kon J et al, J Hepatology, 2006)

CD44のリガンドであるヒアルロン酸を用いて小型肝細胞を選択的に増殖させることができる。無血清培養液を用いると非実質細胞の増生を抑制することができるので、小型肝細胞が選択的に増殖する(図5)。

図5

図5. ヒアルロン酸をコートした培養皿上に形成されたラット小型肝細胞とその特性。多くの肝細胞機能関連遺伝子の発現を認める。
(Chen Q et al, Nat Protocol, 2007)

成熟肝細胞の一部は、小型肝細胞としての特性を有する。分離直後の肝細胞はCD44を発現していないが、ヒアルロン酸上に接着可能で増殖開始と共にCD44を発現するようになる。増殖している小型肝細胞はCD44を発現維持するが、成熟化すると消失する。CD44v6の発現する機序や役割は不明である。

  1. Kon J, Ooe H, Oshima H, Kikkawa Y, Mitaka T. Expression of CD44 in rat hepatic progenitor cells. J Hepatology, 45(1), 90-98 (2006)
  2. Chen Q, Kon J, Ooe H, Sasaki K, Mitaka T. Selective Proliferation of Rat Hepatocyte Progenitor Cells in Serum-free Culture. Nature Protocols, 2(5), 1197-1205 (2007)