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(2)小型肝細胞
(2)-6 ヒト肝臓に見られる小型肝細胞

ヒト慢性肝炎の後期や肝硬変において小型の肝細胞の集族が見られる。再生結節の多くは小型な細胞からなっていることはよく知られている。

図1

図1. 劇症肝炎・慢性肝炎の患者肝臓にみられた小型の肝細胞(矢印)。肝硬変の再生結節内にみられた小型の肝細胞の集族(矢印)。

ヒト正常肝臓にも小型肝細胞は存在する。我々は、外科手術で切除した肝組織の正常部分の一部から細胞を分離し培養を行なうと、成熟肝細胞が長期間培養できること、一部に増殖する細胞が存在することを見出した。ラット小型肝細胞の分離に用いた方法をヒト小型肝細胞の分離に応用することでヒト肝組織から小型肝細胞を分離培養することができる。ヒアルロン酸をコートした培養皿上に低密度で細胞を播種し、無血清培養液で培養する。

図2

図2. ヒト小型肝細胞の分離と培養方法。
(Sasaki K et al. Cell Transplant, 2008)

図3

図3. ヒト小型肝細胞の増殖とコロニー形成。同じコロニーを経時的に撮影した。培養10日で約60個の細胞からなるコロニーを形成する。培養10日目ごろから細胞の一部は大型化し、2核を持つ細胞も見られるようになる。
(Sasaki K et al. Cell Transplant, 2008)

図4

図4. ヒト小型肝細胞コロニーの増殖と遺伝子発現。アルブミン、トランスフェリンやCYPsなど肝細胞の特徴的な分化機能関係遺伝子の他に、小型肝細胞特異的遺伝子であるCD44, D6.1A遺伝子を発現している
(Sasaki K et al. Cell Transplant, 2008)

高齢者(60歳以上)の肝臓から採取した小型肝細胞も同様の増殖能を有する。1ヶ月以上培養を続けることは難しいが、分離した小型肝細胞を凍結保存することは可能である。

Matrigelにより成熟化を誘導することは可能であり、盛り上がった細胞は組織化している。コラーゲンスポンジをスキャフォールドとして用いると類肝組織を形成させることができる。図5で示すように、正常ヒト肝組織から分離した小型肝細胞を多く含む分画の細胞をコラーゲンスポンジ内で培養すると胆管上皮細胞と肝細胞からなる肝臓に類似した組織をex vivoで作ることができる。毛細胆管と胆管との結合は明瞭ではないが、毛細血管の形成を認める。

図5

図5. ヒト正常肝組織から分離した小型肝細胞を多く含む分画の細胞をコラーゲンスポンジ内に播種し1ヶ月ほど培養した。スポンジの培養液面に極性を持つ胆管上皮細胞(核が基底面に整列したCK19陽性)、その直下のスポンジ内に大型の肝細胞(Hep-1陽性)の集族が認められ、また管腔構造を持つ胆管上皮細胞も見られる。培養液中にアルブミンを分泌している。
(Sugimoto S et al, Tissue Eng, 2005)

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  2. Sugimoto S, Harada K, Shiotani T, Ikeda S, Katsura N, Ikai I, Mizuguchi T, Hirata K, Yamaoka Y, Mitaka T. Hepatic organoid formation in collagen sponge of cells isolated from human liver tissues. Tissue Engineering, 11(3-4), 626-633 (2005)
  3. Sasaki K, Kon J, Mizuguchi T, Chen Q, Ooe H, Oshima H, Hirata K, Mitaka T. Proliferation of Hepatocyte Progenitor Cells Isolated from Adult Human livers in Serum-free Medium. Cell Transplantation, 17(10-11), 1221-1230 (2008)