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(3)肝硬変ラットへの肝細胞移植

NASHにより肝機能が悪い肝癌患者に対する広域肝切除は、術後肝不全や死亡に繋がることがある。術前に肝機能を向上させた上で肝切除術を実施できれば患者の予後を改善できる。そこでNASHモデルラットを作成し、術前に肝細胞移植を行い肝機能を付加した状態で70%肝切除術を行うと生存率が向上するか検討した。
CDAA食を12週間ラットに投与し70%肝切除術(PH)を行うとほぼ全例死亡する条件で成熟肝細胞(2×107細胞)を脾臓経由で移植する。

図1 CDAA食投与期間と肝臓。投与期間が長くなるにつれ結節形成が明瞭になり、線維化、肝細胞の脂肪の貯留が顕著になる。

図2 術前に肝細胞移植を行ったラットの生存率は向上した。肝組織において、Ki67陽性細胞率が上昇し、増殖している肝細胞が優位に増加している。

図3 肝細胞移植を行っていない肝臓では肝切除後、TUNEL陽性細胞が顕著に増加するのに対して、移植された肝臓においてはアポトーシスが明らかに抑制されている。

図4 肝細胞移植を受けたラットの6ヶ月後の肝臓と脾臓の組織像。移植した脾臓にも肝細胞は生着し、肝臓ではドナー細胞が増生し既存の肝細胞と置換していた。線維化は明らかに減少していた。

実臨床において肝細胞の術前移植というのは現実的ではない。しかしながら、ドナー肝細胞は手術時にはほとんど肝臓内に見られなかったことから肝細胞そのものが、レシピエントラットの生存を高めたとは考えにくい。ドナー細胞が分泌する何らかの因子が既存肝細胞のストレス耐性を向上させ、増殖活性を誘導したことが推測される。本実験結果を踏まえて、ドナー細胞が分泌する物質を同定することにより薬として開発できれば、肝機能の低下した肝臓の、より安全に広範囲の切除を可能にすることになる。

  1. Nakamura Y, Mizuguchi T, Tanimizu N, Ooe H, Ichinohe N, Hirata K, Mitaka T. Preoperative hepatocyte transplantation prevents cirrhotic rats from receiving the fatal damage by a liver resection. Cell Transplantation, 23(10): 1243-1254 (2014)